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死刑囚が望んだものは、裁きか救いか『イノセント・デイズ』/早見和真【レビュー】

 

文庫本の帯コピー「読後、あまりの衝撃で3日ほど寝込みました」という言葉が印象的だった作品、『イノセント・デイズ』

WOWWOWでのドラマ化もされた、重厚な社会派ミステリーとなっています。

今回は、『イノセント・デイズ』をネタバレなしで紹介します。

半分紹介、半分感想のようなものです。よろしくお願いします。

あらすじ

田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺めた罪で、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか。産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼なじみの弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は……筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長篇ミステリー。

(文庫版裏表紙より引用)

 

見どころ紹介

孤独な運命に従って生きる主人公

裁判での判決文を各章のタイトルとし、彼女を取り上げた産科医や中学時代の友人などの視点から、田中幸乃の生涯が浮き彫りになっていきます。

その人生は、端的に表すと「悲劇」でしかありません。

彼女はひたすら愛に飢え、その心に漬け込まれ、人に振り回されてきました。

その跡を追っていくと『どうしようもない星のもとに生まれてきてしまった』という印象を抱きます。

自尊心や自己肯定感といったものをひとつも持たない彼女は、ただ、死が巡ってくるチャンスを待ち侘びる人になっていたように思います。

追想の隙間から見えてくる、田中幸乃の人生とは。

 

裁判におけるマスコミの闇

事件をセンセーショナルに取り上げるマスコミの姿は、現実の裁判の報道を彷彿とさせました。

犯行の数週間前に美容整形をしたことから「整形シンデレラ」と、世間の興味をあおるようなキャッチコピーをつける報道。

充分とはいえない取材から発言を切り取り、何回にもわたって繰り返しニュースを流し、その凶行を印象付けていきます。

まるで事件をエンターテイメントや娯楽のように消費していくマスコミの姿が、克明に描かれているのが印象的です。

人々の追想から浮かび上がる田中幸乃の生涯と、真逆を行く報道。

これまでも虐げられてきた彼女の姿が、また虚構によって覆い隠されていく様子が、嫌になるくらい描かれています。

真実はいったいどこにあるのか?

田中幸乃の抱える真意は、いったいなんなのでしょうか。

 

果たして彼女は幸せだったのか?

読んでいくうちに「彼女を救いたい」と思う人もいるでしょう。

「こうなる前に、どこかで手を差し伸べられなかったのか」と悔しく思う人もいるかもしれません。

しかし、読後はきっとこう考えるでしょう。

「彼女にとっての幸せとは、いったい何だったのか」

田中幸乃は何を渇望し、何に執着しているのか。

読んでいくうちに見えてくる底知れない欲望は、私たちの感覚とはかけ離れたものかもしれません。

それでも、自身の目的を見据え、決意を固めてまっすぐに進んでいく姿には、美しさすら感じてしまいます。

どこかに共鳴する部分を見つけると、彼女の背負う悲しみを共に抱え込んでいるような錯覚を起こし、のめりこむように読み進めてしまうかもしれません。

彼女の持つ『負のエネルギー』に飲み込まれてしまわないよう、ご注意ください。

 

「イノセント・デイズ」が好きな方におすすめの小説

第三者視点でストーリー展開していくところ・淡々と物語が進められていく点・物語全体の雰囲気が似ています。

かなりボリュームがあるので、読書に慣れている方におすすめです。

報道の過激さを描いている点が似ていると思います。

SNSの恐ろしさが描かれているのも特徴的です。

まとめ

今回は、早見和真『イノセント・デイズ』作品レビューをしていきました。

話の内容は重いですが、読みやすいので一気に進められる小説だと思います。

読後感は決して晴れやかではなく、欝々とした気分になる人がほとんどなのではないでしょうか。

生きるとは何か、人としての幸せとはどういうことか。

深く考えさせられる物語となっています。